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「春を待つ」伊藤整 [雑感]

 この時期、大雪だった札幌も道路の雪だけはかなり消えた。

 大学に入って男声合唱団に入団して、初年度に練習したのが『雪明りの路』。作詞伊藤整、作曲多田武彦。組曲だが、今しっくりくるのは「春を待つ」だろうか。以下引用(旧字体と表記は現代のものに変えた。)

 ふんわりと雪の積った山かげから
 冬空がきれいに晴れ渡っている。

 うっすら寒く
 日が暖い。
 日向ぼっこするまつ毛の先に
 ぽっと春の日の夢が咲く。

 しみじみと日の暖かさは身にしむけれど
 ま白い雪の山越えて
 春の来るのはまだ遠い。

 引用は『伊藤 整詩集』(昭和29年)より。この本は古本屋で見つけた。どこかの本屋でのサイン会のものであろうか。本人のサインがある。相手主はインキ消しで消されている。売り手が消したのか古本屋が消したのかは分からない。
 伊藤整は、小樽出身で若いときに詩を書いていたが、その後は試作を止め評論と小説あるいはエッセイと多彩な分野で活躍した。「チャタレイ夫人の恋人」の翻訳ではわいせつと摘発され表現の自由を巡って裁判闘争を行った。著書『女性に関する十二章』は確かベストセラーになった。だが、今覚えている人は少ないだろう。私の父の代が最盛期だったから。北杜夫さんと同じように、亡くなると急速に当時のベストセラー作家は存在感を失ってしまう。学校の教師も同じだ。1年教えても、翌年には忘れられてしまうのが教師の宿命だ。

 でも、合唱になった伊藤整の詩は歌となって世代を経て生き続けるだろう。それは、若い世代のもろく、うつろいやすい感情を文字と歌として残してくれたからだ。
 
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