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栗山の栗まんじゅう [雑感]

 もう40年以上前になるか、栗山町に伯父がいた。

 亡くなった父の兄で、わたしが知っている家族の中では、唯一戦争に行って帰ってきた元兵士だった。だが、戦争の話は聞いたことがない。どっちだったか、1本の手の指を失って、会ったときには、いつも手袋をはめていた。
 本当にわたしが幼い頃に、家族で栗山町の家に遊びに行ったことがあるようで、ほとんど記憶がないのだが、10年くらい前に奥さんの葬儀で行ったときには向こうの従兄弟達は覚えてくれていた。
 その伯父は、たまに旭川の家に遊びに来てくれた。伯父の父、わたしの祖父はウチの家族と暮らしていたので、会いに来てくれたのだろう。その時、必ず持ってきてくれたのが、栗山の栗まんじゅうだった。小ぶりのちょっと塩味のきいた餡で、おいしかった。
 祖父が亡くなって、しばらくして、ある夜、家の外に出て双眼鏡で天体観察をしていたところ、「○○さんはいらっしゃいますか」と父の名前を告げて、おずおずと声をかけてくる人がいた。暗くて最初はよく分からなかったが、玄関の明かりをつけると、伯父だということが分かった。自分の弟をさん付けで呼ぶのも変だな、と思ったが、やはり、お土産に栗まんじゅうを持ってきてくれていた。
 夜中になってから来るのも変だなと思っていたら、その内、奥さんとうまく行かなくて家出をしてきた事と聞いた。料理人だったので、商売道具の包丁などを入れた道具箱を持って来ていた。父も、弟の立場からは強いことは言えなかったのだろう。親戚を集めて親族会議を行い、結論は、戻ってやり直しをしなさい、と言うことだったそうで、伯父は栗山に帰ったが、数日後、首をくくって死んでしまった。
 その後、栗山の栗まんじゅうは、食べたことが無いが、あのお菓子と昔の味はまだ残っているのだろうか。
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tyuuri

>tochiさん、niceありがとうございます。
by tyuuri (2012-06-21 19:47) 

shira

 なんか切ない話ですね。
 出所は忘れましたが、人は死期の直前に急にものすごく久しぶりな再会をすることがあるのだそうです。十年以上振りにふらりと尋ねてきた知人が、その直後に事故で亡くなったというような話はよくあるのだと。この記事の場合はちょっと違うとは思いますが、久しぶりに会った人がその直後に亡くなるということで思い出しました。
by shira (2012-06-21 21:55) 

tyuuri

>shiraさん、伯父はウチにいる間は「上げ膳据え膳」でとても感謝していたようです。最後に少しはいい思いで過ごせたのかも。
by tyuuri (2012-06-22 18:23) 

tyuuri

>HIROMIさん、niceありがとうございます。
by tyuuri (2012-06-24 15:38) 

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